この生きている生命
もうすぐまた一年が終わる。
365日、およそ9000時間という長い時間を生きている。
24時間は長い。
そのうちの何時間を、ボクらウツ人は平和で平穏に過ごせただろう。
痛みのない苦しさ。
理由のない怒り。
明けない朝。
終わらない夜。
闇はどこまでも黒く暗く救いがない。
先もないのに、焦り、苛立ち、誰かのせいにする。
そして誰のせいでもないという、当たり前の虚無に打ちのめされてきた。
思うようにならない身体を憎み、自分の存在すらを呪ってきた。
この一年、と振り返るには、長すぎた日々。
余りに空虚で濃密で、説明なんかできない日々。
他人にはたいした変化のない日々。
それを、知っていても、願いの手を伸ばす。
どうかください。
分けてください。
穏やかな気持ち。
安らかな眠り。
安全で、誰からも害されない空間。
何も起こらない。
奇跡は降ってこない。
何も変わらない、酷すぎる時間と空間。
期待しても無駄、そう知っていても、死に切れない身体。
傷つけても、痛めつけても、生き延びようと堪える身体。
流れ出しても固まる血。
麻痺しても、やがて動き出す指先。
自分の身体は、必ず応えて、励まし、ついてくる。
心が涙を流しても、身体が脳が命じる。
頼むから、生きてくれ、と。
ボクらの使命で、義務で、仕事で、呪いで、夢。
それが、生きること。
生きてください。
みんな、ここまで来た。
やっとここまで来たんじゃないか。
与えられた生命を生ききるのだ。
一秒、一分を、気が遠くなっても続けるのだ。
今動かしている、その存在は悪じゃない。
消そうとしている、その願いは罪じゃない。
誰もが見ていて、見ない振りをしているわけじゃない。
ボクは見ている。
感じていたいと思う。
見ている夢や空は違っても、ボクらは同じ時間を生きている。
やっと会えたんじゃないか。
やっと探したんじゃないか。
このひとときの、下らなくも、愛しい場所を。
世界では腐ったと言われる。
社会では勝者が笑っている。
多数決に勝てる術はない。
ウツ人は疎まれ、踏みにじられていく。
要らない、消えていい、死んでいい。
小声でも、心の中でもいい。
違う。
そう言って欲しい。
大きな波の中で、大きな流れの中で、ボクらは余りに弱い。
弱くて守りがいもない、そう思われている。
違う。
違うのだ。
理由なんか要らない。
違う。
違う!それは判るはずだ。
一度、壊れて崩れた心。
それはモノじゃない。
きっと捨てていないし、消えてもいない。
いつか見える。
明日かもしれない。
もう見えているかもしれない。
生と死は、線でなんか分かれていない。
生きる。
その一言で、どこまでもボクらは生きることができる。
「死んだような」なんて存在しない。
生きているのだ。
この生きている、あなたの生命を感じて。
生きて!
今年が終わるんじゃじゃない。
生命が続くのだ。
どこまでも、どこまでも。