MelancholyDampirの日記

ウツな人の独り言

もてない話

もてたい!ボクは実にそれだけの目的で生きてきた。
男でも動物でもない。
同じ人間の、日本人の、同じくらいの歳の、できれば容姿と性格のそこそこ良い異性である。
これが、途方もない高望みで分不相応であることを、ボクは随分と後になって悟った。
・・・
もてなかったのである。
心底諦め、何度も絶望し、そのうちに飽きた絶望の方から閑を出してきた。

子供の頃は、チビ。
これは中学生まで長く続いた。
チビ。 それだけで異性の半分以上からは、恋愛対象以外として認知された。
一般レベルでは、ふーん・・とか、へぇ・・とかいう気温程度の反応である。
言葉を話す小動物以下の扱いである。
そこで、もてる奴らを観察した。
勉強ができる。
元々勉強が出来なかったので、そこは勇気ある撤退を決めた。
今からやっても、もてることより寿命が先だ、そう判断した。
動物的な勘であり、ナイスジャッジであった。
そして別の要素を探した。
身体能力である。
足が速いとか、力があるとか、原始的で、およそ現代的ではない理由ではあるが、
結構な数の男たちが、少しもてる、という上級ステージにいた。
ボクは、暇さえあれば走りこむようになり、父親の錆びたハンドグリップで握力強化にいそしんだ。
中学に入る頃には、走ることが苦でなくなり、握力も50キロを超えた。
小さいながらも、無駄な筋力をつけたボクは、女子からの甘い誘いを待ちわびた。
・・・
来なかった。
その頃の異性たちは、アイドル熱全盛であり、見てくれの良いカイワレ大根男が持てはやされた。
腹筋が割れていることはなんのポイントにもならず、握力についてはゴリラに対してと同じ評価だった。
ボクの周りは、やはりボクと類友の、脳味噌まで筋肉の男どもであった。
投げれば速いし、蹴っても凄い、走れば韋駄天、跳べば天狗だった。
そして、漏れなく、もてないのである。
韋駄天も天狗も、どちらかと言えば神に近い存在で、異性など意識しないであろうと思った。
しかしボクらは人間で日本人。異性からの潤んだ視線が欲しいのであった。
友人Aは、夜な夜な枕を相手に口説き、押し倒しては、猛烈な愛撫の練習に励んでいた。
友人Bは、生身に見切りをつけ、当時は珍しかった「アニメのヒロインとの疑似恋愛」に沈んでいった。
どちらも痛々しき存在であり、異性たちからの評価は産廃と同じであった。
ボクも焦った。
ジャッキーチェンのポスター相手にキスの練習をしている場合ではなくなった。
母親のブラジャーをくすね続け、片手で外すことをマスターしていたが、
悔し涙も混じり、色々な意味で先が見えなくなった。
友人は長身だったから、チビのボクが落ちる底は地獄より深いだろうと感じられた。
チビであることは呪いと同じく感じられ、骨の成長を促すため毎日マサイ族よりも跳ねた。
カルシウムのために牛乳を一日一本飲み、煮干しで満腹になった。
庭の雑草が伸びることにも殺意を覚えた頃、ボクは長身を諦めた。
・・・
勉強をした。
もてたい!それだけのために、試験でもないのに本を読み、専門書を漁った。
遠回りでも、けもの道でも、その先に異性がいればそれだけで良かった。
中学も卒業間近、そんな頃に結果が出た。
成績優秀となった。
遠方の高校に行くことになった。
見知った異性がゼロになった。
掛け値なしのアウェイであった。
そうなるとボクは呆然を通り越してどうでも良くなった。
異性はこの世に存在しないという、挙句の境地「ボク地球」に住み始めたのである。
逃げたのであり、壊れたのであった。


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高校生活は、どう思い出しても異性が出てこないのである。
当たり前で、そういう世界に住んでいたのであるから、見ていないものは思い出せないのである。
壊れていても、異性が恋しい。
では、どうやってもてるのか、どこで何をすればもてるのか・・。
ボクは青春の貴重な時期を、まだ一人で同じことを考えていた。
外人だ!
天啓のようなソレは、きっと変なクスリが見せたバッドトリップの一種だと思う。
ボクは、友人のツテを渡り歩き、日本語がカタカナになり、英語になるまで彷徨った。
不安大半で入った薄暗いパブでは、夢芝居であった。
不細工な男がブロンドと話し、吐きそうなブスがブラックと抱擁していた。
やっともてる!
果たしてその時は来たが、ボクは容姿まで中途半端であった。
薄暗い照明の効果で、ボクは北欧とのハーフと間違えられ、北欧系を紹介された。
あれほど勉強した英語は何だったのか。
神様あんまりだと思った。
紹介されたスウェーデンの彼女は、無神論者だった。
エスもゴッドもぶった切りだった。
神様にあんまりだと思った。
・・・
日本人からも、エイリアンからも見捨てられたボクに残ったのは、
良くない頭と、良くないクスリだけだった。


今思い返しても、もてるために相当に努力したと思う。
もてると聞けば、過激な筋トレをして、きをつけ!ができないほど二頭筋を太くした。
レアなジーパンを手に入れるため、古着屋に働き詰め、
美味いコーヒーを手に入れるため、喫茶店に入り浸った。
ヒゲと聞けば伸ばし、ロン毛と聞けば同じく伸ばし、ホームレスから「俺の場所だ」と言われた。
自分の存在するところが、もてる地平とは重ならないと気付いたのは、すっかり大人になってからだ。
・・・しかし・・
40歳前後から、総決算のように、もてるようになった気がするのだ。
娘のお母さんとか、息子の女友達とか。
笑うだろうが、これは巨大なモテ期である。
最近は、おばあちゃんにナンパされた。

「病院で、お薬をもらった後に、お茶しませんか?」

お互いに寿命が近いのだろうか。