MelancholyDampirの日記

ウツな人の独り言

子どもら言うこと

ボランティアで勉強とか教えた子らから、たまにメールが来る。
忙しさにかまけて大半を適当に返す。
大半以外のメールは、少し考えて返信する。
心が荒んできているメールだ。
自分は無価値だとか、この先に望みが薄いとか。
自虐的な文面に、ボクでも逆むけする。
大人なら、メンタルを病んでいる、と言うのだろうか。
メンタルの一言では片付かない。
無価値とか望みがないとか、言うは簡単だ。
そう言えば、余裕のある人は温かい言葉をくれるし、私もそうだと同情もくれる。
そこで、大丈夫だ、と立ち止まれる人は、まだまだおめでたいのだ。

子どもらの、呟きとも叫びとも聞こえるメールには、差し伸べる手を拒む冷たさがある。
相手の答えなど求めていないのだ。
聞いて欲しいといった一片のとっかかりもない。
一方通行。
ボクから出向くことではないのに、話だけ聞かないと、と思う。
そうだ。
安心したいのは、いつだって大人なのだ。
できることはしました、と、納得したいのは大人の都合だ。
いじめでも汚職でも、後々の説明のための、自らの安全の担保として話を聞く。
当事者なんかどうでも良いのだ。
なんという卑劣。

ボクは自分が浅はかで、子供の愚かさだけを引きずっている大人だとよく知っている。
そういう大人は少なくないが、子供には言わないようだ。
なぜって、弱みをみせたくないからだろう。
何回かメールに返信を繰り返すうちに、人伝に会って話を聞く。
聞くだけ聞く。
ファミレスとかファストフードとか、そういった店で聞く。
横は赤ん坊連れの若いお母さんたち。
後ろは、年齢不詳の男の数人連れだ。
時間通りに来た元教え子たちは、スマホをいじっている。
見てくれだけは大人の、化粧や服装で背伸びした大人まがいが、少しずつ口を開く。
部活がつまらないとか、家族とうまくいかないとか。
他愛もない話だ。
そのうちに「あぁ・・久しぶりに話した」などと、可愛くはにかむのだ。
部活の話など同級生とすればいいし、家族の話は家族に・・。
そこで呆然とする。

場所も余裕もないのだ。

友達の噂など、ひるがせば、明日は我が身だ。
差しさわりのないことを言って、自分の安全圏を守りながらしか、子供は生活できない。
家に帰って、やはり自分の場所を守りながら、生活して疲れ切って眠る。
起きたら、やっぱり昨日と同じ、気の抜けない世辞の繰り返し。
弱音も吐けず、本音も言えず。
道徳なんてくそくらえだ。
生きているなんて感覚を、どこでどうやって養うのか。
大人と何が違うというのだ。
自分がどう言われても、正しいことを素直に言えば良い!
そんな無理難題を子供に振りかざしている大人が恨めしい。
言いたいことを言えば角が立つ。
相手がいれば、好き勝手はできない。
多数決になれば自分が叩かれる。
みんな、そこが判っているから、世辞で乗り切るのだ。
ボクは落ち込む。
子供に伝える言葉など、偉そうに持ち合わせてはいないのだ。
子供の前だろうが、どうしようもないものはどうしようもないのだ。
・・・
うなだれるボクのことを、後ろの男らが見ている、らしい。
教え子が気味悪そうに眼で諭す。
傍目には、高校生と話している怪しい小汚いおっさんだからどう見られても仕方がない。
振り返ると、真後ろで目が合う。
どきりとする。
女子高生を欲望の対象と換算できる澄んだ目だ。
ナンマンダブ。

視線を戻すと、元教え子が、何か、ボクの言葉を待っている。
そう気づいたが出ない。
「自分に関係なければどうでもいいと思わないで欲しい」
そう言って、また胡散臭いことを言ったもんだと思う。
ボクの横の席で泣いていた赤ん坊が、母親を待ちかねていよいよ大泣きだ。
つい手が伸びてあやしてしまう。声が裏返る。
ボクは子供が大好きなのだ。
仲良くなったところで、母親が帰ってきてきまずくなる。
「すみません・・」と言う。
『いえ、相手してくれて助かりました』と言われる。
へ?と拍子抜けする。
教え子たちも笑う。
ロリコンじゃない」と言う。
『知ってるよ』と笑われる。
「赤ちゃんとか人妻とか、そういう趣味はない」と言う。
『だから知ってるよ!』と言われる。
「赤ん坊の方はどうか知らんが、ボクが赤ん坊を好きなのは伝わったと思う」
泣き止ませて、きっとドヤ顔だったと思う。
めちゃくちゃ言われると思って向き直った。
『そういうお父さんて、アリかも』
皮肉も交じっているが、十分に褒め言葉だ。
「ありがとう」
そう言ってまた笑った。

それからしばらくは、女子男子でイマドキの話をしたり聞いたりしていた。
ボクは、入れるわけがない。世代も出来も違うのだ。

男子生徒には古本屋で参考書を選んだ。
女子生徒には特に。
逆にスマホの使い方を教わったくらいだ。

こと切れるようなメールは女子生徒からだったが、その後は来ない。
男子生徒づてに、大丈夫らしいと知った。
よかった。

追伸で『なに見てんだよ?と殴りかかった○さんはヤバかった(笑)』とあった。
ボクは、目が合うとカチンとくる。
頭が悪い分、手がはやいのだ。
そしてケンカが好きなのだ。
子供なのだ。