MelancholyDampirの日記

ウツな人の独り言

親父の本分

実家に電話したら「やっぱり親父だけいた」ので少し話した。
お袋が旅行中なので、親父の生存確認のために電話したというのもある。
 
ボクの親父というのは、田舎から「田舎」と呼ばれるトコの次男に生まれた。
次男のくせに要領が悪く、兄貴の丸投げと弟の突き上げで居場所がなく、
ソコソコできた勉強に望みを託してひたすらに努力したらしい。
 
イメージ 1
 
親父の「楽しかった子供の頃」というのは、つまりこういう写真のもっと影が濃い類のものである。
たしか「親父と叔父さん(弟)が並んで笑っている写真」を見たことがある。
親父はフクちゃんみたいな学生帽をかぶっていて、ほつれたチョッキを着ており、
叔父さんはシャツの上に、これもやっぱりほつれたチョッキを着ていた。
『いいだろうこの写真!?』と親父に見せられたとき、ボクは「へばりついたような笑い」しかできなかった。
2人とも笑顔だが痩せこけており、叔父さんはご丁寧に前歯だけが抜けていた。
親父が抱いている「ネコ」は飼い猫ではなく野良だということであったが見れば判った。
アバラがそぞろに見えて目も虚ろなネコは、きっとゴボウみたいなイモでも食ってしのいでいたのだろう。
「貧しくも楽しい生活」とは言うが、貧しさが抜きん出ていて、イヒヒ・・としか笑えなかった。
 
親父は関東の北端から単身、関東の南端に出てきているので旧友は少ない。
そこにきて、妙に頑固で口下手でKYで助平なので(故郷を離れて以降の)友人は更に少ない。
打ち解けて話せる同年代は、お袋の親戚とかお袋の親友とかお袋の知人とかである。
つまり「お袋」が仲立ちしないと生活が危うい。
道に迷う・腹はへる・金は下ろせない・電話は嫌い・メールは打てない・誰もいない・どうしよう、と悪循環である。
実の父親が「孤独死」では後悔し切れないので、マメに電話はしている。
 
お袋というのは、末っ子で可愛くて、そこそこの農家に生まれたので性根は明るく貧乏臭くない。
姉さん兄さんから、そこそこチヤホヤされ、そこそこいじめられているので幼くして達観したらしい。
スポーツはダメだが勉強好きで、貧乏を苦にしないので前向きである。
人なつっこく世話好きで人当たりもやわらかなので知人友人が多い。
少し歩けば友人に会い、同窓会では未だに人気者で毎年深酒して親父をヤキモキさせている。
お袋は旅行好きで、今回は2週続けての京都旅行らしい。
つまりお袋の人生の主役はお袋であり、「親父」は40年以上脇役を引き受けている。
 
ボクが、物心ついたとき、既に親父は脇役が板についており、口数が少ないので更に脇役臭かった。
たまに会話があっても、続かない・乗ってこない・気が利かない・聞こえないのナイナイづくしであった。
 
ボク 「最近変わったことあった?」
親父 『そうね・・・ないやね』
 
(沈黙)
 
「あるでしょ?リサイクルに毎日いってるんでしょ?」
 
『あぁ・・あのいつもの店ねぇ・・』
 
「うんうん、どうしたの?」
 
「潰れるん・・引っ越すらしいん・・・」
 
いきなり「へっこみネタ」だ。
やばい。
落ち込んでいる。
切り返す。
 
「でも、近くに引っ越せばいいし、また行けばいいじゃん?」
 
『そうね・・自転車でいけるトコなら行けるね・・』
 
「あ、50円コーナーでは何かGETできた?」
 
『特にないね・・』
 
何故にこうもキャッチボールが苦手なのかわからない。
別の話題。
 
「夕飯は?食べた?」
 
『食べた・・うどん・・2日目』
 
また「へっこみネタ」だ。
わざとか?
落ち込んでいる。
切り返す。
 
「明日は美味しいもの食べたらいいじゃん?」
 
『明日は・・いやダメだ・・うどんの汁で・・ごはんを食べるん・・』
 
聞いたトコによれば、親父はうどんが好きで、お袋が作っていってくれたからきちんと食べるつもりらしい。
お袋の帰りをきちんと家で待っており、ごはんは指定されたものを食べきる。
親父がイヌであれば満点である。
お袋の「しつけ」、これも満点である。
 
『オレはイヌだから・・』
 
親父の口癖が少し判ってきた。
 
親父は続けた。
 
『お母さんは京都のエクセ・・何とかで、豪華なごはん・・オレうどん・・ヒヒヒ・・ふーっ』
 
ひとりでオチをつけて卑屈な笑いの後にため息。
ふてくされたイヌはたちが悪い。
 
「じゃーね、きちんと食べて。またね。」
電話を切ることにした。
 
『お前も。寒いからな・・気をつけて。』
親父も電話を切った。
 
 
電話の後、ボクの息子(シモネタではない)が結婚式の写真を見てゲラゲラ笑っていた。
何が面白いのか?言葉が話せない赤ん坊の考えは不思議である。
笑ったボクと妻の白黒の写真である。
『ちちー!ちち!』とボクを指差してゲラゲラ笑っている。
腹が立ってきた。
一昨日までゲロゲロ吐いていた息子である。
元気になればどうでも良い、と思っていたがどうでも良くなった。
笑うな!と言ってムスっと家事を始める。
(今日は妻も娘も風邪をもらって、使えないボクが家事をしている)
台所で家事をする後ろで、子供らがすましてテレビを見ては妻に話しかけている。
『ははちゃん大丈夫?』と娘が聞けば、妻は『いいから寝ろ!』と答えている。
『パイ!パイ!』と息子が授乳をせがむと、妻は『今日は品切れ!寝ろ!』と答えている。
娘は遠い目をして靴下をいじっている。薬はまだ飲んでいないだろう。
息子はおっぱいにありつけず、絵本を投げつけては何かを主張している。
何だか、貧しいながらも楽しい光景であった。
押し殺して笑った。イヒ・・ヌフフフ・・。
 
ボクは笑い方が卑屈である。
「ヌフフフ」と低音で笑うため、むっつり、とか、暗いとか、ワルモノとか言われる。
『もっとアハハハ!と腹から笑いなさい!』とはお袋の口癖である。
しかし、腹から笑えることは、そこここには落ちていない。
ウツ人になってからこっち、殆ど笑っていない。
「ヌフフフ・・」と、やっぱり敵キャラ(わるもん)みたいな笑いかたしか出来ない。
親父と同じでも仕方がない。
ボクも親父も、お袋ほど性根が明るくないのである。
だから、ボソッと言っては家族から笑われ、笑われることが嬉しくなるのである。
イヌに似てきても仕方がない。
 
 
 
黙って「笑いモノ」になる。
 
 
 
親父の本分である。