MelancholyDampirの日記

ウツな人の独り言

R15~離婚式その2

(珍しく前回からの続き物である)
 
主を失ったマイクが左右に振れている。
すっと「上半身裸の新婦父」が流れたマイクを手におさめる。
父親の周囲からソソクサとワレモノ鳴り物高価なものが片付けられる。
 
『えー、ムフゴホ、えー、ワタクシぃ・・酔ってまーす!!』
 
 
誰も笑わない。みんな知ってるよ・・。静かだ。
 
 
『オレわぁ・・カタギじゃねーぞぉ!!』
 
 
更に静まり返る。知らなかったよ・・。
 
 
『そこの、な?娘が生まれて暫くは、オレはバカだった・・』
 
『今も十分バカでしょ?』と隣で母親がこづいている。
笑いたいが笑えない状況の観衆。
 
 
『酒だタバコだ薬だシンナーだ・・みーんなオレが悪い、見てたら真似する。簡単だなぁ』
『娘が不良です困りますって言われても困ります!』
『どうしようもないなぁ!こりゃまたどうしようもぉ!』
『しかーし!そこの男ぉ!?』
 
ボクは顔が引きつってきた。
場外乱闘無制限な匂いがしたのである。
周囲を見ると、みんな口を半開きにしてアワアワ言っている。
 
 
『ありがとう・・』
 
 
すっころげそうになった。
ラッシャー木村を越えている。
 
 
『オレわぁ、娘が不良になってベッカン行っても少年院に行っても、そりゃ仕方ねぇって思った。
タバコ臭くてもシンナー臭くても、そんくらいで丁度いいのよ!って笑ってた。アハハハ・・・ハァ
それがな、傷やあざは日に日に減りだしてな、どんどん顔はキレイになる、背は伸びる、おっぱいはデカくなる。
パーイパーイボイーン♪笑わない・・あー笑わないねー・・
 
高校に行くくらいになって「おはよう、行ってきます」って聞いてな、オレは悪い夢だと思った。
「行ってきます」なんてな?帰ってくるのかい?ってな?そしたら帰ってくる、毎日帰ってくる。
酒を久しぶりに舐めた。美味かった、やっぱり夢じゃない、オレは・・夢じゃない、長い夢じゃない。
街をぶらつきながら声かけて回る「おいココは誰のもんだ」ってなぁ?古いけど酒がないからな。
 
ふっと見たら「求人・短期」ってな?
汗して働いて、日払い1万円・・安いなぁ・・安いんじゃぁ!!
こんなんじゃ酒も飲めんのじゃいぃぃぃ!!!
シカシ、その後の酒が美味いんじゃぁぁ!!!
 
何?何をひっぱんてんじゃ?コラ、何?酒?おーやめたやめた!
え!?何ぃ?ワンカップは、お前、ジュースだろうが、離せぇ離せ
 
働いたら酒やめてよかったと思う、体が動く軽い、タバコは美味い。
金は入る、入るんだなぁ。おっかぁに渡したら、泣いてやがる、コラ、何で今も泣いてんじゃ?
 
『しかーし!そこの男ぉ!?』
 
『そのキズぅ!!??』
 
いや、謝るな、お前はいい。
何?え?お前も殴った?そりゃ殴っても仕方ないときもある!
ソレはオレが娘が小さい頃つけたんだ・・・知らなかった?余計だったか・・ちっ
お前な・・あーぁ・・
そんなにさ、顔がきれいになるとは思ってなかった、思うかぁ!?あぁ!?
どうせ化粧すればいいんじゃ、ぐらいに思ってた、どうにでもなると思ってた。
娘を好きな男が・・いたんだなぁ。
お前が家に来たとき・・そうそう、殴ったなぁ・・覚えてないほど殴ったなぁ。
殴ってるんか殴られてんのか判らないぐらいになぁ・・・いや、殴ってた!そう!
 
お前が別の女に行ったのも良く判る!ぁ?何をみんなして見てるんじゃ!?
何も言わずに家を出てったらそういうコトなんだ・・判る。
 
ただ「行ってきます」って言ったら帰ってこないといかんと思う。
「おかえり」って言われたら、もう・・・どこも出て行けなくなるしな、そんな気がするのよ。
「行ってきます」「行ってきます」「行ってきます」・・・ブツブツ・・・
いいなぁ・・「行ってきまーす」「ただいまぁ」「お帰り」
いいなぁ・・「行ってきまーす」「ただいまぁ」「お帰り」「行ってきまーす」「ただいまぁ」「お帰り」
ブツブツ・・
 
 
っるさい!寝てないわぁ!!
 
 
行ってきますってあんないいカオで言っといてな、
 
そうやって帰ってこない奴がほとんどなーの!!
 
 
娘・・な・・殺さないでくれてありがとう。』
 
 
会場はぞっとした。
ぞっとするしかないからゾッとした。
何に感動したのか、怖いのか面白かったのか、何にぞっとしたのか。
司会はぽかんとしており何も言わない。
ヒゲで背の高いニセ神父が「ココは貸切ですから心ゆくまで夜が明けても、どうぞ」と言った。
小さな修羅場になると思ったが、明るい中で式は二次会三次会と延々と続いた。
オヤジさんは鼻血を流して店の端に寝ており、チャックが開いていた。
上半身には阪神(T)のタオルがかかっていて誰もが吹き出すのだが、そっとしておかれた。
 
その後、新婦も新郎も別別に結婚し、結婚式にはあのときの面々はいなかったらしい。
当たり前である。
 
結婚の事実を広く「面とおし」を含め、知らしめ挨拶とするのが結婚式。
筋を通せば離婚式はケジメであり落とし前であり、離婚こそ周囲に知らしめるべきだと思う。
結婚しました・子供が生まれました、なんて年賀状でも要らないのである。
離婚しましたが元気です・とにかく元気で生きてます、という報せこそ「挨拶」であると思う。
 
最近の「離婚式」は指輪を2人で砕くのが儀式らしい。
指輪は売ればなんぼかになるし、モノに罪はないはずである。
恨みつらみをモノに委ねて八つ当たりしているようで、儀式としては下劣である。
 
 
 
「別れなければ始まらない人生もある!」
 
次世代の結婚紹介所のコピーになりそうである。