戦場カメラマンは帰るな
「JO」の記事とすべきであったが、あそこは文章力があるときしか書けない。
ボクの記憶がしっかりしていないのと、事実と虚構がまざってはならないからだ。
ボクは戦場カメラマンはキャパとかそのくらいから英雄視していた。
花鳥風月なんかの雅は追わず、あえて腐臭と火薬臭漂うとこに命を賭す。
そこに若さからからの、危険・命・男という浅はかな幻想を見たからである。
JOと東京の一大衆飲み屋で飲んでいたとき、30代くらいの兄さんが話しかけてきた。
JOは大きい仕事が終った後で、香港経由で観光できていた。
JOは、焼酎と怪しげな漢方?で大分できあがっていて(フリだが)陽気に受け答えしていた。
兄さんは名刺を渡す。
英語だが、危険だけど楽しい写真家・・みたいなことが書いてある。
『あなた、そう、あんた。軍人だね?どこか判らないけど日系でしょ?』
『オレ戦場でやってるんだけどね?いやいやこいつで』
とカメラを見せる。
『軍にも「専属カメラマン」はいるんだけどねぇええええ』
JOはカメラを取り上げていじっている。
やばい口調だ。やっぱり酔ったフリだった。
男はカメラを返せという仕草をしながら続ける。
『どこでやってんの?』
『IRAあたりが欲しいんだけど』
JOの目が「そこに座れ」と下を向く。
兄さんは判らないらしく、ソワソワして横に座った途端、脳天にJOのかかとが落ちる。
JOは、でかい独り言をはじめた。
『オレはフリーだけどね!?』
『戦場ってもんはないの!ヒトが死ねば戦場だ。じゃぁその辺で撮ってろ』
『そうはいかねーよなぁ。だから「戦場」に来て、死にそうだったっていう写真が欲しいなぁ。』
『専属だって「良い写真」撮るぜ?なんたって、それで士気が上下するからな。』
『お前らみたいなのが、よく「専属」からおいしいとこだけ大金で買って帰っていくよ』
『すぐ行け!戦場とやらに!!』
『お前らは広報に話して、補給あたりで誤射の瞬間でも撮れればいいんだろ』
『マエには出てきて欲しくないんだよねぇえええ』
『戦争って、そんなにうるさくないの』
『マエなんて朝は目がつぶれる。でもって夜ってなると足元も見えない』
『すぐ向こうには多分敵がいる。敵っていってもクニの雇われだからたちが悪い』
『そんなときな頼るのは鼻と耳しかねぇえええよなぁああ』
『はるか後ろのお前らのソノ「シャッター」が聞こえてな。急に慌てて撃っちまうバカがいる』
『作戦はパーだ。作戦なんて紙切れでヒトは死なないけどな・・』
『作戦のうえにたっくさんのヒトがいるのよぉおおお』
『行け!戦場とやらに!二度と帰ってくるな!』
JOは女の子の店に行こうといいながら、そのへんの庶民を捕まえて金を払っていた。
カメラマンは何だか動かないが、死んではいないようだった。
「なぁJO、カメラマン嫌いなのか?」
『戦場で写真撮ってる奴がいたら、まずそいつから狙うなぁああ』
『こっちは銃持ってるから勝てるしなぁあああ、ケケケ』
「でも、戦場では女子供とか、村とか理不尽にやられていくじゃないか、そういうのを」
『死んでる奴と、これから死ぬ奴の写真ばっかりをどうすんだ!!』
ボクには言葉がなかった。
ボクは知っている。
JOのモノ入れ?には沢山の写真が入っている。
血や水でしわになったり、破れたり焦げたりしている。
紙のクズみたいなのも入っているが、きっちりと保管されている。
そして裏面には、JOの字(日本語じゃない)でびっしりと書き込みがあるのだ。