MelancholyDampirの日記

ウツな人の独り言

ツンデレと読書

「隻眼の少女」を読了した。
綾辻氏を結構読んでいて、その氏が推すので読んだとも思う。
知人に勧められたのとでは興味の湧き方が違う。
作者が京大の理系出身なので読んだというのもある。
理系の方が論理的思考に図抜けているのである。
曖昧としたもの・・という「みたいな」論議をサイエンスは許さない。
研究と勉学の根底はロマンであろうが、
表現できないものをきちんと字句にするのも言葉を持つヒトの義務である。
 
ツンデレ、と帯にあったから釣られたという理由もある。
この帯に「ソレはないだろ・・」というのは作者だけでよい。
時代や購買層を意識して、流通させる側は必死なのである。
 
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リアルに近い?恋愛ゲームでは確か右端がツンデレに分類されていた。
年下であるが、複雑な家庭環境から大人びて達観しており、
痛いと知ってなお、傷を刺して去っていく感じらしい。
それでも、主人公を意識すると少しデレッとなる面も併せ持つらしい。
ツンデレねぇ・・
切り捨てる。
 
ツンデレとは自然な獣の本性であり、オスの欲求でつくれるものではない
 
 
カマキリはオスを誘って交尾したら、捨てるか喰らう。
ライオンはメスが一家を率い、オスは必要なときだけ群れに迎えられる。
メスは交尾し子が生まれたら、再びオスを野に放つ。
オスは気位ばかり高くて、狩猟能力に劣るから結構惨めな末路が待っている。
それが自然というものであり、メスは必要なときのみオスを呼ぶだけである。
必要だから、そのときは策士となる。
甘い言葉も幼気(いたいけ)な所作も、全てはオスに対しての狡猾な罠であり、好意では決してない。
 
・ 今日は何もすることないなぁ・・
・ ワタシのことどう思う・・
・ そうなんだ、聞いて良かった・・
 
こういう台詞は遠謀深慮の端緒である。
ありもしない理性全てに召集をかけてでも罠は回避しなければならない。
罠と判っていても、それに進むように仕組まれていくところが自然の懐の深さであり残酷さである。
 
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まずは読了して欲しい。
それからツンデレとは何かを感じて欲しい。
ネタをばらさないように概観する。
無論ばらすが。
 
登場する一部地域にある土着の「スガル縁起(伝説)」は日本という民族の特殊性を批判している。
文化それ自体がつくれないから、宗教にかしずくという形で、儀式祭典などの文化を形成する。
つくられた宗教を狂信的に信仰させるには、情報が少なければ良い。
デマの流布と同じである。
スガル(様)は多くを語らず姿見せない。
「友達の友達から聞いたけどすごいんだって」という風な情報である。
そういう訝しい胡散臭さも、一度「知人友人の口」から語られれば信じてしまう。
コミュニティリーダー等によるステレオタイプの形成過程である。
信じがたいものでも多数派になれば、それは常識になる。
日本という文化への憧憬であり、同時に先のとがった皮肉でもある。
 
みかげ、というツンデレ少女は、生来の探偵である。
何も関心がないオスの大半が彼女の「こ惑的」な魅力に吸い込まれ、進んでしまう。
みかげは、原始的でありながら生臭いスガル伝説を、身をもって謎解く。
その真摯な「瞳」は、あらゆる読者に対し、挑戦と追従を突きつける。
みかげを通して、信じがたきを信じていくのである。
 
おそらく批判、というか、作者が意図していた興味の対象は別のところにある。
生来の探偵、それ自体が最も胡散臭くつくられた、しかし説得力のある存在なのである。
宗教や環境が、ヒトをして狂信妄信なさしめているのではないのである。
何かを確固とした目標としたとき、ヒトは既に異形であり、異界の住人なのである。
 
図書館の職員から「もう閉館です」と言われたが最後まで読んで返した。
初めは買って蔵書にしようと思っていたが、やめた。
裏切るのは生身の人間だけで十分である。
 
ツンデレなのは登場人物じゃぁないよ・・。
作者だ・・。