MelancholyDampirの日記

ウツな人の独り言

52円ばばぁ

長文になるが、リハビリだと思って読んで欲しい。
 
昔の話である。
ボクがバイトで高収入を維持していた頃の話であるから、20年くらい前になるか。
コンビニを3店舗かけもちしていた。
うち2店は店長代理である。
元々の1店では「チーフ」というくだらない肩書きで、時給と役職加算の分、倍は働いていた。
店長代理などという役職はない。
1店はオーナーさんが飲んだくれで店の経営を丸投げされただけである。
もう1店の「代理」は、これも店長がギャンブル好きで、SVがくるとき以外は常に不在だっただけである。
つまりボクは、いいカモでとばっちりだったのである。
 
「チーフ」である店では夜勤をやっていて、他は夕方の数時間に入っていた。
そこで注文から棚割り、シーズンごとのイベントごとの商品管理をしていた。
バイトやパートの採用は、無論、店長の仕事であるが、ボクがやっていた。
いずれも私鉄駅の近くであったので、バイト採用には苦労した。
 
朝は、(私見を省き)キレイなお姉さんを雇った。キレイどこを2人揃えるのは苦労した。
「仕事前の買物ついでに下心も買ってやろう」という魂胆であり、ことごとく当たったからくだらない。
 
昼は、見かけで判断せず、マジメに勤務時間中は仕事をこなす「その辺では顔」のおばちゃんを雇った。
おばちゃん仲間でクチコミを狙って集客し、更におばちゃんの智恵にも期待していた。
おばちゃんたちは、野菜や漬物といった「コンビニらしからぬモノ」を広く浅く陳列し、当ててくれた。
ボクはおばちゃんたちに何故か人気があったので、店長さん♪と飲み会にも誘ってくれた。
店長ではないのだが。
 
夕方はバイトをしたい高校生に絞り、これはキレイ汚い、いやキレイじゃない、をまんべんなく雇った。
キレイどこは男女とも、クリスマスとか誕生日とか、イベントごとに休むものである。
そこを、失礼だが、イベントは縁のないキレイじゃないとこが、穴をカバーするという魂胆である。
ボクは全体を指導したが、個人的にキレイじゃないほうをヨイショして厚遇した。
「店長代理のあの兄ちゃんは悪趣味だ」というウワサが絶えなかったが放っておいた。
キレイじゃないヒトは劣等感がある、そこを褒めればどこまでも伸びるものである。
他にも塾講師や予備校の講師をしていたから、「ヒトのコンプレックス」というものを思い知っていた。
ソレが、いかに人格や成長に影響があるか、そのベクトルをどう生かすかに腐心していた。
夕方は、「女子高生目当てのサラリーマン」も狙っていたが、ソレも当たって全くくだらない。
 
夜(深夜~早朝)は、とにかくヒトとして面白いヒトを雇った。
深夜に黙々と働くのは良くない。 笑いながら、それでいて仕事はこなす人材である。
職にあふれた失業者は申し訳ないが面接で切った。
切実にカネのためだけに働かれては、一緒に働く若い兄ちゃんのためにならんからである。
面白い兄ちゃんたちが常に店にたむろして、ついでに手伝ってくれる・・そういうのが理想であった。
実際にそういう店になったとこもあり、そいういう「不良仲間」から、また夜シフトを採用していった。
暴走族みたいなのが、店をウロウロして品物を並べ、そして外の掃除をしている。
時々、血迷った近所のヒトが通報してきたらしいが、『働いてるっす!』と言われ警官は去ったらしい。
 
さて本題である。
消費税が5%になってすぐの時代であった。
代理をしている店で、「さてオレあっちに戻るわ」と言うと、女子高生が呼び止める。
 
『店長!あれですよ・・52円ばばぁ・・』
 
ボクは店長ではない・・。
話には聞いていた。
商品100円につき5円の消費税で105円になる。
50円の商品をふたつ買って消費税はやはり5円、105円である。
しかし・・コレは判っていたが、50円をバラバラに精算すれば52円がふたつで104円、1円得するのである。
そんなセコイ・・と思ったが、52円ばばぁ、というおばあちゃんは、そこに愚直なヒトであった。
 
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店内は仕事帰りの社会人と、塾帰りの学生とその他ヒマ人で混雑していた。
52円ばばぁは、50円の駄菓子をがっぱり!とカゴに流し込んだ。
ヘ!?と見ているとアイスのコーナーにいき、やはり山のように投げ入れている。
50円のアイスであろう。
この店で、「とりあえず安いアイスも適当に置いておくか」というアイスが一気になくなる現象はコレだったか。
レジスター2台はフル稼働である。
52円ばばぁが近づいてくる。
一気に精算しようと思ったが、やはり言った。
 
『ひとつずつカネ払うから!?』
 
カゴで2つ・・相当量である。
キレイじゃない(余計か・・)女子高生がひとりサッカー(袋詰め)についてくれていたが向こうのレジに回す。
お客さまの長い列ができて、皆いぶかしげに「52円ばばぁ」を見ていた。
いつも見ているのであろう初老のお客が『迷惑だろう!』と言ってきれたが52円ばばぁはケケケと笑った。
ボクが「あれ?どこまで打ったかなぁ?」と聞こえよがしにつぶやくと、またケケケと笑った。
帰りがてら52円ばばぁに声をかける。
「楽しいですか?」 52円ばばぁはうなずいてケケケと笑った。 
「ありがとうございました、またお越しくださいませ!」
横のレジの女子高生2人は涙目だ。
『もうあのババァ!嫌です!信じられない!いっつも混んでるときにきて・・』
しかし客である。
店として客を追い出すわけにはいかない。
業務妨害として締め出すことは可能なんだが、なんかボクにはできなかった。
 
ボクは次に52円ばばぁに会ったとき、自分のシフトを伝えてその日に来る様にお願いした。
そのうち、52円ばばぁは、身の上話をしてくれるようになり、混雑時は避けてくれた。
ほどなく、早くにご主人を失くしたさびしいばばぁ、いや、お年寄りだと知った。
そして子供はいないことを知り、「娘がきれいなヒトでそのうちお礼に来る」というボクのもくろみも消えた。
ボクも、5%移行に伴いレジが故障して大変だった、などと話すようになった。
ばばぁ改め、おばあさんは『あんたは何でも知ってるなぁ』と優しく笑うようになった。
 
ボケ店長に呼び出されて、昼間に半分眠りながら店で商品の注文しているとおばあさんが来た。
『あんた、休まないと死んでしまうよ?』と言ってくれた。
「50円の菓子とかアイスとか・・全部食べてるんですか?」
おばあさんは首を振った。
『買物して、余った小銭をビンに貯金していたら、たまるんだけどね・・・・』
『アタシ死んだら使うヒト・・いないもんね・・貯めたって仕方ないね』
ボクはふと外を見て言った。
 
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「赤い羽根です・・ね。どうだろう?募金したら?いや、その無理にってわけじゃないんだけど」
「小銭だって立派なお金だし・・募金ならなんだか、いつでもやってるし・・いっつも必要なんだか・・」
 
おばあさんはそれっきり店に来なくなったらしい。
夕方のバイト女子高生は喜び、ボクの仕事もはかどった。
しばらくして駅前で、あのおばあさんが募金しているのを見た。
ボクは募金は嫌いじゃないので、募金しながら様子を聞いた。
 
『あぁ、有難いんですよぉ!?いっつも募金してくれるんですよ!?』
 
一緒にやっていたボーイスカウトらしき子供が大声で話す。
 
『あ!?お菓子のおばあちゃん!?』
 
しっ!と母親らしきが制して笑った。
ボクも笑った。
 
駅の反対側の、坂を上ったところにかけもちのもう一店があった。
そこの夕方のバイトのキレイな方の女子高生がボクに聞いた。
 
『店長?・・募金ばばぁ、って知ってます?』
 
 
「無駄話しないで掃除してね」と言った。
店長じゃないが、ボクはキレイどこには厳しいのである。