吾輩はウツ人である
吾輩はウツ人である。
名前はカルテに書いてあった。
カルテに書いてあって看護士が呼んだからといって返事ができるとは限らない。
ここ数週間、間歇的に眩暈がひどい。
今週はついに声が出なくなって会社を休んでいる。
眩暈がひどいと立っていられない。
ぐるぐるしたりゆらゆらしたりする。
トイレでは便ツボの水が襲ってくるようで、食事ではどうも箸が定まらない。
総合病院の耳鼻科の医師は『検査しましょう』と言ったが問診は雑であった。
どう雑かというと『検査結果は異常ありません』としか言えないぐらい雑である。
「この肉はどこ産ですか?」と聞いて
『大丈夫ですよ、美味しいです』と答えるぐらい雑である。
耳の聴力検査がバラバラらしい。
高齢者と同じかそれ以下の聞こえらしい。
耳鼻の医師は検査室でわざとボソソと話して吾輩を試したらしい。
(患者を試すあたり、ウツを含めたメンタルを小バカにしている。
つまり、患者を信用せず、わざと検査結果を歪めていると言葉の端々で示していた)
医師のボソソは良く聞こえる。
なぜなら小声が苦手な人種で良く聞こえる声あったからだ。
そしてウツ人は、常に幻聴とひどい耳鳴りによる雑音の中にあるので、あまり雑音検査は意味がないのだ。
耳に中に検査液を入れて「人工的に眩暈を起こす」ということもやった。
眩暈で吐きそうです、と言っているのに酔狂である。
確かにユラユラはしたがむしろひどくなくて定期的な揺れなので心地よかった。
『どうですか?これが眩暈です』と偉そうなのであるが、偉そうな理由がわからない。
「これくらいならバリバリ仕事してますよ!?」と吾輩もむかついてつぶやいた。
怒ったちびっ子医師(ネコのおもちゃぐらい小さいのだ)は
『こんなに聞こえているのにおかしい!つまりは心因性だ』と決め付けた。
雑で乱暴である。
始めたてのゴルファーが、タマが上手く飛ばないとなると「このクラブが悪い」と言うぐらい乱暴である。
今週はMRIだと鼻息が荒かった。
吾輩の上司は「原因さえ判れば何と考える」と言ってくれたものの、幸先が良くない。
肉の産地すらわからず、技術も無しにクラブのせいにする素人が、
『こんどはガイガーカウンターだ!」』と言っているのだ。
放射線とはなんだろう?という素人が線量系の針が振れたら大騒ぎしている現状と似ていなくもない。
そして針が振れなかったら「この不良品めぇ!」ときっと機械を叩くのだ。クワバラクワバラ。
今はとても暑い。
が、暑いからと言って被災地の、あの避難所に比べられるとは到底思えない。
声が出ない。
が、亡くなった方はただのひとことの声すらあげられずに押しやられたのだ。
眩暈がひどい。
が、眩暈が何だ。本当になんだ、このくらいコンチクショウ!
・・・
こうやって、何か症状があると、極端な、それも比べてはならぬ例を引っ張り出す辺り。
吾輩は、ここまで寂しく小さくひねりにひねくれた人種であったかと絶句する。
症状があるから、それを乗り越えるのである。
何回も何回も、数えずにひたすら乗り越えるのである。
その先がどうなっているか、どう進むか、そんな余裕は今までだってなかった。
今まで悩んで考えて、どうにもならなかったことが、明日明後日にどうにかなるとは考えにくい。
吾輩は頭が悪いし、更に何もひらめかないのだ。
吾輩は生きる。
生きねば泰平は得られん。
ありがたや、ありがたや。