MelancholyDampirの日記

ウツな人の独り言

ムリヤリサイクル

ボクは今、結構な笑えない心理状態にあると思う。
が、こういう状況こそワラをもつかんで笑いたい状況なのである。
 
早速「身内斬り」にとりかかる。
 
ボクのオヤジはリサイクルショップが大好きである。
おそらく睡眠と食事の次に好きで、お袋は同じ順位である。
リサイクルショップとは、詰まるところ「他人の不用品」を言い値で買い取っているのだから商品はゴミに近い。
そのゴミに値段をつけて売っているのである。
ボクも大好きであるが、どうしても「良いものが安く手に入るなら」という常識の範囲を超えない。
他人のゴミはどうしてもゴミである。
オヤジは違う。
オヤジの価値観は「いかに安く買うか」、その一点に集約される。
500円のものならその10倍、5,000円くらいの価値がないと却下される。
千円を越えると一万円の価値を求めるから、そのくらいになると商品はほとんどない。
オヤジは高いものはぼったくりでダメだ!という無理な筋を通すことで高いものは買わない。
オヤジは安いものにこそ価値を見出す。
100円を切ってくるとオヤジの眼力は岩をも通す。
 
旭川市内に、車で行く郊外なのだが「土日のみ開店・服は全て10円」という無茶なリサイクルがある。
開店前から年寄りが並びだすので、ボクは怪しい健康食品の店だと思っていた。
リサイクルと知ってから気にはなっていた。
オヤジに話すと、即行こう!と言い、一日で抱えきれないほどのゴミ、じゃなくてお宝をGETした。
翌週からは、善は買っても急げ!果報は待ってくれない!早起きは10円!と錯乱気味だった。
現地に着くと車を停める場所もない、びっくりだ。
やっぱりお年寄りが並んでいる。
車内から走り出して店に向かうおばあさんと、
運転席から『おい!どこに行く!おい!おーぃぃぃ』と捨てられたように叫ぶおじいさん。
パジャマの上にジャージを着て、汗だくで自転車で乗り付けるおばさん。
さりげなくタバコを吸ってはいるが挙動の怪しいおじさん。張り込みではないようだ。
店の前の人ごみが消える。
開店。
転ぶおじいさんと見捨てるおばあさん、「あんた財布持ってきた!?」半ば怒声である。
すわ!鎌倉!
 
だれが客か店員か、どれが商品なのか、そういうことを考えていると何も買えない。
着物からぬいぐるみから家電から・・商品は節操がないが、お客はもっと節操がない。
陶器やら置物をどんどんカゴに詰めていくお客さん。歩くたびにカゴの中で割れた物がこすれる音がする。
服を抱えている店員と、それに群がり引っ張り倒すお客さん。
見ていると店員ではなく、まとめて持って行こうとしたお客だったらしい。共食いだ。
ボクはカゴを取り損ね、ウロウロとしているが人ごみに気圧されて、奥のカーペットに座る。
すぐ横でゴルフクラブ(50円)の素振りを始めるおじさんがいて、危ない!と避ける。
家電?のコーナーでは、おじさんが押し問答している。
『それはオレが買ったんだ!』
『ここに置いてあったぞ!』
『だから置いておいて後で買おうと思ったんだ』
『まだ買ってないだろ?』
怖いので逃げる。
 
婦人モノのコ-ナーは、何が商品で、どれを試着していて、どれを着てきたのか全く不明である。
ケケケケという甲高い笑い声と『アラー!?』『ウヒョヒョヒョ!』という日本語以外しか聞こえない。
暗ければ魔女の集会にしか見えない。
心細くなった。
 
向こうからズンズンとこっちに来るおじさんがいる。
 
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あの帽子は・・オヤジだ。
オヤジは四季を通じてウェスタンである。
105円で買ったウェスタンハットを100円で買った婦人モノベルトでカスタムしている。
こんなパニックな状況で平然としている。
いかに普段リサイクルで「ならし」ているかが、うかがい知れる。
 
『このクマのグラスな・・30円!GET!』
カピバラのぬいぐるみ・・同じくGET!』
『これはな・・』
話の途中で走り出した。この店は途中で商品の大量追加があるのだ。
もう、言葉が追いつかなくなった。
服の山に群がる客・・店員は「商品を陳列」することを諦めて、放り出して逃げていく。
服の山がみるみるなくなって、後は魔女の笑い声しか聞こえない。
サバンナではこんな光景なのだろうか。
ボクは人間だから生きていけないな・・・。
オヤジが戻ってきた。
両手に大量の服を抱えている。
かっこいいぞオヤジ!
なぜサバンナに動物として生まれなかった!?
 
オヤジはお袋の服も「勝手な判断で」持ってきていた。
お袋は「お前に」というオヤジの好意にNGとNOを出し続けた。
 
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お袋 『なんでぇ・・もっと黒とかそういうところのをガバッと持ってくれば何とか着られるじゃん?』
オヤジ 『レトロでいいじゃねーか!?』
お袋 『レトロなヒトがレトロ着たらますます年寄りになるだけじゃないの・・』
オヤジ 『10円だぞ!有難く受け取れ!?』
お袋 『嫌だ!ブー!!』
 
サバンナじゃないのでお袋は断っても生き延びることができた。
ウェスタンなオヤジはウェスタンシャツを試着して披露した。
肌色とオレンジが絶妙に混ざっておらず、リアルな肌色そのものなのだ。
お袋 『ちょっと・・女物じゃない?きつそうよソレ・・』
オヤジ 『サイズに「F」でフリーって書いてあるんだ!?』
お袋 『女物でのフリーじゃダメでしょ?』
オヤジ 『フリーは男も女もない!全てのフリーだ!』
目が獲物を逃してたまるか、と血走っている。
ボクに振る。
『オイ!ここを見ろ!my・・・ミ・・・ミラショーンだ!一流だ!クソ!最高だ!GETだ!』
オヤジは妙に薄手のシャツを何度も着なおしては鼻息を荒くしていた。
ボクはミラショーンのつづりを知らないことを心底恥じた。そして知らなくて良かったと思った。
「オヤジ、そりゃmystericだよ?」などと言おうもんなら頭からかじられるところだ。
 
オヤジは「馬の刺繍のシャツ」も試着していた。
つくづくウェスタンなのだ。
オヤジの羽織った白いシャツの胸には「馬ってこんな感じ?」という自信のないニュアンスの馬が2匹いた。
あぁ家庭科の授業であんなの見たなぁ・・アレはダメだな、と思った。
オヤジは案の定、シャツを脱いで吐き捨てた。
『刺繍はかっこいいが、サイズが惜しい!女物かも知れない・・』
その刺繍はかっこいいのか!?
ボクが拾い上げたそのシャツには袖にフリルが付いていた。
 
ボクが魔女に精気を抜かれきった頃、オヤジは買いつくして撤収をはじめた。
お袋はこれまたケロッとカゴ一杯に買っており、いやぁ楽しいね♪と言っていた。
ボクにはこんなに逞しい血が流れているのかと、少し心強くなった。
そして貧乏性なのはボクの性格ばかりじゃない、と確信した。
オヤジは『これだけ買って1200円ちょっと!』とゴミ袋を掲げてご満悦だった。
 
帰ってしばらくしてトイレの修理屋が来た。
ウォシュレットが動かなくなっていたのだ。
「基盤を替えれば大丈夫です」と修理の兄ちゃん。
シュン!と音が鳴って水が出た。直った!
修理費が1万2千円だった。
シュン!となった。