ジェイソン
13日の金曜日は関係ない。
先日、札幌に行った。
間違ってビジネスホテルを「二人」で予約してしまった。
予約画面では「二人」が標準らしい。小さくない親切だ。
結果は良いとした。
セミダブルを広々と使うことになったからだ。
人形の店が定休日であり、すっかり傷心して消沈した。
道行くヒトは忙しそうで足早で、ボクと同じ歩みのヒトはヒマそうなヒトばかりである。
そういうことだ。
不変の事実があるなら、金がなくて時間がある、と、金があって時間がない、ということである。
コーヒーを飲みにマックに入る。
ヒマそうな若者が携帯から目を話さずに数人会話をしている。
『どうする?これからどうする?』
『うーん、○くん呼ばない?』
暫くして○くんが来て『何してたの?』と聞き、『別に』と一同。
一分ほどして
『どうする?これからどうする?』
悪循環である。
ウツ人が薬が合わなくて、医師に相談したら薬が増えた。
睡眠剤で眠いのか副作用で眠いのか・・。
『どうする?これからどうする?』
全くどこにも良くある話である。
パスタを食べてオリーブ油に酔い、都会は値段ばかりが高くて殆どは調味料だ、と思い、ホテルに戻った。
コメが恋しくなりおにぎりを買って戻った。
ボクが泊まるフロアをバックパッカーみたいなのがウロウロしている。
当たり前に整ったヒゲと、彫刻刀で彫ったみたいな顔は、おそらく確実に外人である。
「何をしてるんだ?」と聞く。
そいつは当惑している。
外人らしくなく、貼ったように困っており、それもオシッコしたそうなオロオロぶりなのである。
「何をしてる(英語、以下英語)」と聞く。
『トイレを探している』
「じゃぁ使え、そして帰れ」
『サンキュー』
そいつがジェイソンであった。
ジェイソンは宿無しで、カネはあるのに空腹で、中東系の顔をしてニューヨーカーであった。
ニューヨークで英語の教師をしており、16カ国を廻ったらしい。
パスポートは本物らしく、盛んにフランスを褒めていた。
「じゃぁフランスに行け、そして住め」
『いや、まずはベトナムに行きたいんだ。30歳までに30カ国を廻りたいんだ』
あと2年か・・・次に行くという中東の国(誤解があるので伏せる)でズドンだな・・。
それより何より度し難いのはジェイソンは片言の日本語もできないらしいことだった。
こういう「日本をなめた外人」がボクは嫌いである。
28歳で童貞であるが弟は海兵隊で、親は偉くて・・・と言い出した。
「ジェイソン、あんたクレイジーだよ。ジェイソン本人は何ができてどこへ行くんだ?」
「女を語らずに、何か語れるのか?え!坊や?」
ジェイソンは怒ってオーバージェスチャーになった。
『誰だって自分の行く先なんか判らない、今は勉強しているんだ』
「ボクは自分が地獄に行くと知っている、だから厳しい地獄に行かないように良いことをするようにしている」
「そうだな、ジェイソン、ここは二人部屋らしいから、泊めてやる」
ジェイソンは納得いかないが泊まることになった。
『地獄に行くかは自分では決められない、なぜ自信がある?』
「天国は満杯でキャンセル待ちだからだ。それにボクは大統領じゃないから優先してもらえない」
ジェイソンはジョークだと思ったらしいから続けた。
「天国は地獄の住人に言うことを聞かせるためのウソだ。地獄は現在だ、そして居心地は悪くない、イェイ!」
『あんたクレイジーだ!』
ジェイソンはサッポロ黒ラベルを二缶飲んですっかり酔って弁が廻ってきた。
日本は外交に逃げ腰だ、とか、古い文化を大切にしない、とか、女性が弱い、とか・・・。
が、ことごとく反論した。
逃げてはいない、大臣が変わりすぎるだけだ。
文化とは古いものばかりじゃないし、文化は譲られるものじゃない、奪ったもんだ。
現に多くの古くからの北米文化を無視してアメリカはあるんじゃないのか。
女性が弱い?そりゃ外人に甘いだけだ。
「ジェイソン、あんた可愛いな。もう一度シャワーを浴びて来い」
ジェイソンはいや結構!と言い、ベッドの端っこに小さくなった。
ケツを触ったらマジで「オウ!ノウ!」と言った。
こういう「日本をなめた外人」は撲滅すべきである。
ボクは睡眠剤が効かず起きていた。
ジェイソンは5時に起きて部屋を出て行った。