一矢・・いっし
声が出なくても、字は書ける。
そう信じて震える手を叩きながら直筆で書いた。
会社オエラにあてた私信。
ボクは反論を書くな、と言われても書き続けてきた。
反論を言うな、言えばどうなるか判るな?言葉を選んでいるうちに言葉を失った。
今日の出社は脚が震えた。
それでも行くのが使命、そんな大層なものじゃない。他に意志を示す方法がないだけ。
どんな悪口雑言で叩かれるのか覚悟して行った。
オエラは目をあわせようとすらしなかった。
無視が多く、敬語だった。
・・・どうも何かが違う。
オエラは「私信」をもてあそびながらその扱いに困った風だった。
当たり前だ。
ソレを会社全体に公表すれば「自分は私信としての秘密も守れない」と暴露するも同然。
オエラの小さなプライドにかけたのだ。
が、数人には見せていた模様。
その程度の十字架もひとりで背負えないのか。
ボクはオエラを賛美した文を載せた。
「私信としての秘密は守られないだろう・・」という計算・・・褒められたところだけ言いふらすだろう計算。
そして全文を見せなければならなくなる、そういう計算。
ボクは全く卑怯だ。
そして、数人で内容を見て何か感じたところでボクを叩こうにも叩けないのだ。
そこにはウツ人とは、という事実だけを記した。
なぜ死に至るかというと、全てが自分の責任と思いつめ、何でも死へのきっかけになるということ。
ウツ人と死はどうやってもつながってしまうからこそ、生きる苦しみを知っていること。
ボクは何度も死にかけ、守られ救われてきたこと。
そこに会社は入っていないこと。
全て「真実」という作れそうなモノではない。ただの事実だ。
オエラはボクを避けていた。
「部下の死、すぐそこの危機」というものをもっと心から感じて欲しいのだ。
ボクはどうでもいい。無視ということがボクへの今後を示唆して余りある。
『検討します』・・時間切れを待っていろということだろう。
ボクの仕事が一つ終った気がする。
同じ会社のウツ人たちが、もう同じ扱いをされることはない、そう願う。
一矢も報いてない。判っている。
それでも、ウツって死ぬのか・・?幹部がそう感じてくれればいいのだ。
自己保身からでもいい。ウツ人を悪人扱いしなければいいのだ。
これほど小さなささやかなことに、ヒトは年々もかけなければ辿り着けない。
それが現実。だから現実。