MelancholyDampirの日記

ウツな人の独り言

ちょっとかなしいクリスマス

クリスマスはクリスチャンの行事だから仏教徒は関係ないと思った。
彼女がクリスチャンだと知っていたから、何をするのだろうと思った。
クリスマスに向け、彼女は多忙の中、さらに多忙になった。
教会での仕事、いや奉仕。
身寄りなき子供たちへのお母さんとしての仕事、いや義務。
彼女は高校生だったが義務ではないから行っていなかった。
別の理由も会ったろうが聞かなかった。
ただ、会えればよかった。
 
クリスマスには教徒として、信者として、いや神の使いとしてのおつとめが多かった。
やっと会えたのがクリスマスの少し前。
頬を高潮させて走ってきた彼女を、ボクは少し苛立って迎えた。
 
『ハイ、プレゼントです。○さんに更なる神のご加護がありますように』
 
ボクは呆気にとられた。
下心と欲望とその他それに類する赤黒い感情しかなかったので焦った。
「ありがとう」、そう言ってプレゼントをあけようとした。
彼女は恥ずかしそうに、後で開けて?と言った。
踵を返して、急いで戻っていく彼女。
なんなんだクリスマスって!
愛し合う男女より神様だってか。
 
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電車の中でプレゼントをカバンから出して手に取った。
ギフト用の包装ではなく、素っ気無い店名だけが書いてあった。
中身を覗く。
深い色の青がひとつ。
涙と土が混ざったような、深く悲しく、でも安堵する色の青。
ハッとする。
金も時間もないボクたちが、散歩がてらデートする商店街で何となく寄った画材店。
そこで見つけたのがその青だった。
ボクはヘタな油絵をやっており、欲しかったが、彼女とのコーヒー代の方が優先した。
ヘタクソな絵を描くには、その色についた値段は高かった。
・・・どこにこんなお金が・・・
想像するだけで、胸に酸っぱいものがこみ上げてきた。
万引きはないので、自分のお金だ。
家庭を養って、教会へは無償奉仕、あの顔を見る限り、寝る間もない。
そこまでして「何となく欲しかったモノ」を探して買ってきてくれた。
ボクは下心を捨てた。元々なかったのでないか、そのくらい簡単に欲望は捨てた。
 
クリスマスが過ぎて、年末の、街は慌しい、そういうある日の夕方。
待ち合わせに彼女は来なかった。
約束を違えたことは一度だってなかった。
ボクは待ち続けた。
彼女は来なかった。
遠くからバイクの音。
彼女の兄だった。
不良、そう呼ばれていたが妹だけが生きる望みの純粋な好青年だった。
ボクは何か察した。
兄もソレを察した。
 
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彼女はバイクに轢き逃げされ死んだ。
家庭を助け、地域を愛し、神に使え、自分の希望や夢すら現実と引き換えに捧げていた彼女。
神は決して救うべきを救えない。
ボクは神を呪った。
彼女への贈りものとして「彼女の絵」を描いていた。
判りやすいほど有頂天だったボクは、あの青ばかり使って描いた。
青くさく、どこまでも蒼い彼女の顔。
ソレが、写真もない彼女の最後の顔になった。
兄が遠くで見守る中、ボクは川に絵を流した。
止まらない涙。
思い出まで流れそうに思えて、ボクは気がふれた様に、涙の混じった泥を食べた。
涙と土の味がした。
兄が走ってきて言った。
 
ごめん・・いや、なんでアイツだけがこんなことに!?
ボクも同じ気持ちだった。
 
どちらともなく殴り合って、河原で飲めもしない酒を飲んだ。
夜が来て朝が来た。
当たり前の朝の光景。
決定的に足りないものがある光景。