理由なき殺人へ
ムシャクシャしていた。
別に誰でも良かった。
子供ならばれないと思った。
顔も知らないヒトへの殺意。
ちょっとしたことへの殺意への変化。
ドラマや本ににするには理由がない。物語にならない。
被害者を描いても、加害者がつまらない。
理由なき殺人、イライラ殺人、ここ20年ぐらいの傾向らしい。
ネット社会は関係あるだろうが、加害者の発達プロセスには決定的な要因ではないと思う。
理由なき殺人の潜在要因として、思う。
『鏡がいかん!』
ボクはウツ人だから、鏡などほぼ見ない。見ても何もいじるところがない。いじりようがない。
男はヒゲと鼻毛と寝癖くらいで、少し生意気になると眉毛とか、ワックスで毛の流れ・・くらい。
相当のナルシストでない限り、鏡を一日に何十回も見られるものではない。
それでも見てしまう。理由は「納得いく映りまで見る」クセがあるからである。
それはボクのような不細工には屈辱である。
どんなに構えてみても二重を濃くしてうつむいてみても、少しマトモな不細工になるだけである。
顔をどうにかして自分に納得させても、身体は容赦しない。
全身鏡で徹底的に洗い出される自分。
何かむかつくのであるが、自分の不細工やデブやハゲは誰のせいでもないからタチが悪い。
そうして、鏡を遠ざけるが、遠ざけるほど、ガラスとかショーウィンドウが気になって仕方がない。
鏡をみるからいかんのだ。
芸能人や映画スター・・・鏡で見比べるから暗示にかかる。
同じ人間、目をこうして、口をこうすれば、あぁ近いかもしれない、
うつむいて、少し上目にして、髪が同じだから・・あぁ似てなくもないんじゃない!?
似てないわ!
芸能人は鏡を見ない。
少し崩れると、そういうヒトがすっ飛んできて直す。全く自分の顔を意識しない。
それでも意識以前に意識している。だから際限なくキレイでかっこよくなるのだ。
オフで外出しない芸能人には納得する。顔をどうしたらいいのか、自分でわからないからだ。
一般人は違う。どうにかして「なりたい顔」に近づけようとする。
もう諦めたわ、そういうヒトこそ諦めていない。
諦めたなら、顔の話題に触れない。その話題に乗らない。
諦めても追ってくる自分の顔、捨てたくても捨てられない・・どこかで、切ない希望が、怒りに変わる。
何で自分の顔はこんなにこんなに不自由なのだ!
不細工と思っていたヒトが自分より高い地位に着き、高い給料をもらう。そんなこと顔は関係ない。
鏡の罪である。鏡はこうなればいいな・・という自分に少しだけ近づけてくれる。
ずっと見ていれば不細工な顔ではないな?と麻痺してくる。
公園の便所だって1分もいれば臭くないのと同じだ。
鏡はニセの夢を見せる。なりたい顔と並べて映る自分のお顔。
『私、こうやってこうすると、いやいやそっちから見ると・・○に似てない?』
似てないわ!
そう言えないストレス。当たらずも遠からず、そういう大嘘を付くストレス。
鏡がなければ、不細工は不細工と知らず、そう言われても、ウソを吐けと何も犯さず生きていけるのだ。
鼻毛が出ているだと?お前だって眉毛で目が見えないじゃないか?
寝癖?貴様など寝グソではないか?と不細工か否か以前に笑いに満ちて終るのだ。
女は鏡がないと化けにくい、いや化けられない。鏡がないと生きるうえで支障があるだろう。
どんなに手馴れていても、自分の顔のどこに正確な目があり、唇の幅はどこまでか、
どんなに顔を直に触っても推測の域を出ない。鏡の功罪の大なるはそこである。
鏡がないと、電車やバスの中で化粧も、化けることも、左官のような塗りも不可能になる。
家にもどこにも鏡はない。自分で「どうにか納得できるレベル」を放棄して外に出るしかなくなる。
服より装飾より、まず奇抜で前衛的なみんなの化粧が目に入る。
自分はどうか・・?会社や学校に着くまでドキドキする。
バスや電車の中で周りをチラ見をしながら吹き出すのをこらえる。
そうやっている自分を、やっぱり見ながら何か笑いを堪えている口裂け女たち。
友人に聞く
『あたし、やばくない?』
『昨日より全然だよ、OK』
『あ、マミッチ今日も休み?』
『付けまつげが目に入ったまま、どっかに目の奥のほう?に消えたんだって?』
『こわ!ダブルトリプルで普通だったからな・・・』
『あ、おはよ?・・って誰?』
『カワイだよ!?』
『口がオバQだよ?目はないし・・』
『アハハハハ』
こっちも笑いだけで、歪んだプライドとか膨張しきったナルシズムは出番がない。
殺意とは、全ての否定からはじまる。
些細なことを否定できなくなり、全否定になり、ソレが自分以外に向く。
鏡があると、まず自己否定がはじまる。
こんなの、自分じゃない、せめて口と鼻と目と耳と、歯並びと肌と・・・・って全部じゃん・・!
胸より腹が出てるのはなぜ?腹の上の胃の辺りから既に胸より出てるんですけど・・!
腹で自分の足が見えないっておかしくない?指先だけは見えるけど・・。
全ての軽いムシャクシャは鏡にある。
二次元の住人だって、鏡はあるのだ。
立派なマイキャラが理想像、どこまでも肥大する理想像。
日常の鏡がなければ、二次元と三次元のハザマで幽霊になる必要はないのだ。
自分はいけてる!そう思ったら戻ってこなければいいのだ。
三次元に鏡はいらない。
全てを映すもの、そんなもの地デジで懲りたはずであろう。
あんなにブスだった?あんなにデブなの?
ソレは自分に対する怒りに近い安堵なのだ。
カガミキケン。