MelancholyDampirの日記

ウツな人の独り言

リストカット 女の一人暮らしⅡ

ボクはリストカットの跡を見るとザワザワする。
どんなに楽しくても、あの跡を見ると一瞬で心がさざなみ立つ。
息が苦しくなって、その場から走って逃げそうになる。
逃げそうになるから『あの、それ・・』と話しかけてしまう。
だから不審者である。
女性が多い。男性もたまにいる。若い子に多い。
 
少し前に書いた女性はリスカからアムカに走り、ODと薬に平穏を求めた。
女性が平穏を欲したのではなく、錆びた心が呼び寄せたのだ。
カンベツから保護観察が出ていたから、いろんな意味で注意されていた。
親が悪かった。
『切るのをやめろ!!』、両親ともに怒鳴りつけていた。
切るのをやめさせて、平穏を取り戻すのは親のエゴでしかない。
彼女は身を切るのではない。ぶらさがった命から自分を救うのだ。
ジソウや保護司だって、いつの時代も慢性的に人手が足りないのだ。
時代や教育のせいにして、親が果たすべき、ささやかな義務からすら逃げるから。
『だってあの子は何も話す気がないんです!』
違う。
話すべきを持たない相手に、誰しも何も語らない。
 
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『また無償だけど、ひとりギリギリな子がいるの・・・』
 
保護司のお父さん(そう呼ばれてた)の話。
 
「中学生なら、歳も近いし、俺、行きますよ?」
『いや、人づてでな。もう成人で、女だ・・』
「俺も色々ありますし、他を当たってください」
『住所だけ教えとくわ』
卑怯者のジジィだ。
童顔でチビだからって、面倒を押し付けるな。
女は面倒だ。ボクはそう思っていた。
親に保護されて、学校にも行かない身分で、親の金で、薬だ売春だの、面倒だ。
穴なんかあいているから悪い。そういうひどいことを考えていた。
住所には中の上くらいの家。もう面倒くさい。
呼び鈴とインターフォン
『もう、うちの子に関わらないで下さい!?』
ボケ、せめて出て来い。
経緯を説明。
『あの・・切らなくなるなら是非』
またリスカか。
ひどい吐き気。逃げるのだ。
あいつらは気を惹くために切る。つらければ切る。寂しければ切る。楽しければ切る。
理由はなんでもいい。タバコと一緒だ。
部屋は普通。女も普通。
普通という言葉は範囲が広い。リスカの跡さえなければ。
あっても普通だ。そういう普通に住んでいないから切るのか。
女友達から言われていた。
『決して、認めないこと。怒るんだよ?あんた、優しいから』
手首から二の腕まで波のように続く跡。
ポカリを飲んでタバコを取り出す。ひどい行動の矛盾。
窓を開けてタバコを吸っていたら、泣けてきた。
『何で泣いてるの?』
「こっちが聞きたいよ」
『お父さんたちなんて言ってた?』
「切るなってさ」
『無理!』
「わかってる」
こいつは甘えているんだ。気を惹こうたって無視だ。帰るんだ。
夜は集会で、問題が山積だ。暴力団と交渉したって無駄だ。
『どこ行くの?』
「甘えが通じないトコ」
『私も行っていい?』
好きにしろ。殴られて、まわされて目を覚ませ。そう思っていた。
集会では浮くその服装。「普通」は浮くのだ。
男ドモが触りまくっている。悲鳴と女どもの怒声。
レディースにもかまわれているか・・。
その子は(大人だが)、連れられてきた。
『この子、ギリギリだ!』
シンナー中毒が何を人のこと心配していやがる。
あぁ、過呼吸のパニックか。恐怖症だったか。ヒトの。
後でまわせよ?と言われるのを適当にあしらってマックにしけこむ。
「大丈夫、まわす気なんぞない。挨拶だ。まわせば犯罪。むしろ彼らは止めている方だ。」
ボクは何をフォローする。
まわすのはバカな一般人。「普通」の人たち。
世間話もできる。いい子だ。笑顔が可愛い。口を隠さなくて良い、と伝える。
「らんぐいの歯を気にするな。思うほど誰も見ちゃいない。」
ケラケラ笑う。不細工だ。
不細工は関係ない。だからこそ死などもっと関係ない。
よーし、生きるぞ。
 
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その子の通帳に結構あった残。当分暮らせる。
親の期待も無関心もない。親友も恋人もいない。好きなヒトもいない。
あるのは「普通で良いから」という、周囲の最大の悪意に似た希望。
この子の魂は少ししか残っていない。
ギリギリか・・。ジジイと友達の言うとおりか。
 
安いアパートを探して、隣人も調べる。おせっかいはいないか。
親には当分連絡せず、保護司の連絡先だけ教える。
「俺の連絡先?俺には家はない!」
うそばっかり。深入りが嫌なだけだ。
曜日を決めて、顔を出し、料理して片づけをする。
ある日は平穏。次の日になるとコールタールが固まっている。血だ。
手首など切り落とせ、と出かかる。言えない。「優しい」と誰かに言われているようで腹が立つ。
一ヶ月くらいでカッターとカミソリを見せてくれる。
目的外使用のそれらを預けてきたら、もうすぐ終わりだ。
「働きたい?いいんじゃない?バイトからで。」
「え?フルで?家族んとこに戻ったら?金、ラクだよ?」
そうやって、月日が経つ。
何が普通という枠で、何が普通とされているか、彼女は再構築する。
激しい感情を、演じることに置き換えて、大人になった、と笑う。
 
大人とは、誰も傷つけないのなら!大人とは・・
違う。別に切ったって構わない。
切ってくれ。ボクは矛盾につばを吐く。
 
働きはじめて、一回も休まず、彼女は資格の勉強をはじめた。
ボクは「また」と言って、部屋を出て遠ざかってから手帳を出した。
 
彼女との予定の前に「終」と書く。
保護司に連絡。「大仕事だったか?」に「そりゃもう!」と笑う。
 
次こそヤク中の兄ちゃんがいいな。金持ちのボンボンがいいな。
そう思った。