MelancholyDampirの日記

ウツな人の独り言

笑いのある風景

小学校か中学校の地理のテスト問題。
 
黒人と白人の混血は「   」と呼ばれ・・・
 
テスト範囲が南米だから、記憶していた中から選んで書く。
しかし間違えた。
記号の中から選んで書くのだ。
ボクは一人で自分のミスを反芻しては笑っていた。
「合っててもバツバツだよ・・・」
 
「変わった友人」二人も間違えた。
答案自体が赤い斜線の大雨だ。
見ることにも笑わないことにも慣れていた。
答案を見せてくれる。
 
黒人と白人の混血は「茶人」と呼ばれ・・・
 
「なんで茶の人なんだよ!?白と黒なら灰色だべ!?」
ボクが呟くと一人が笑った。
すぐに真剣な顔になる。
 
『灰色の灰が書けなかったんだよ!』
 
別の友人が感激したらしく、おぉぉ・・と同意する。
『まったく同じだ!灰色が書けなくてさ、ねずみ色じゃ何だか悪いべ・・?』
それで茶色なんだ!そうだ!と言い合っている。
地理のテスト問題とか、人種差別とか、一切関係なし。
 
だからなんで茶人なんだよ小林一茶なんだよ・・・?
 
お茶の人が小林一茶だとか千利休だとかは、彼らには関係ないのだ。
地理のテストかどうかも関係ないのだ。
与えられた常識クイズに、全力で実力で答える。
そこから生まれた笑いは、おそらく彼らには??でしかなかったのだ。
天然とか、狙ったとか、そういう素質も計算も何もないのだ。
ただ、頑張って生きているのだ。
 
高校生になって、一人と街で会うことがあり、聞いた。
友人二人のうちのもう一人、その母親が死んだ。
彼はまだ中学のままで、遊び放題だった。
母子家庭だけど、だから自由とかじゃなくて。
学校に行かないのと同じように、家にも余り帰らなかった。
そんな間に、なんだか判らないが、母親が死んだ。
 
そんなときに、会いたくないなぁ、とボクは思っていた。
そうしていたらやっぱりマックで会った。
「聞いたよ・・大変だったって言うか、その・・・」
 
『あのさぁ!』
彼はコーラかなんか飲みながら話しだした。
 
『俺さ、夜中にさ、帰ってきてさ。あ、やべぇ怒られるって怖くなってさ。
部屋も玄関も暗いしさ。でも、玄関に入って電気探してたら、絶対に、かあちゃん起きてんじゃん?』
『何時だ!!ってさ。知ってるからコソコソ帰ってくんだけどさ。
そんで玄関の近くで待つわけよ。で、いつものパターン。明け方くらいに吹っ切れてさ、
怒鳴られたら怒鳴り返してさ、着替え持って、また出ればいいやってさ』
 
『そんで、そーっと、そーっとだよ?すげぇ、ものすげぇそーっと鍵を出してさ、入るわけよ』
 
小声になっている彼。小芝居がうまい。
 
『でさ・・・・鍵が開いてんのよ!?
やべぇって思ってさ。  起きてんじゃん?待ってんじゃん?うわ、やべぇ、怖ぇ!ってさ
お線香の匂いがしてさ、仏壇があってさ・・。
うわ!そうだった!かあちゃん死んでんじゃん!?ってさ・・・』
 
そこまで話して、二人で大声で笑った。
死んでることも忘れてた。
ボクは、あの「茶色の人」みたいな感じで笑っていた。
誰もいない鍵の空いた部屋に入ろうと、アパートの前で、ずっとうろついてたのか、コイツ。
「自分の家なのにな(笑)」
『そうそう!かあちゃんも、いないのにさ(笑)!』
続ける友人。
『超怖かったよ!お線香の匂いはさ!・・・出た出た!って思ったもん(笑)』
「実際に出てもおかしくないしな(笑)」
『そうそう!死んでるからな!?もっと怖ぇぇと思うんだよ(笑)』
 
そこまで笑ってから、彼は急に泣いていたのだ。
『忘れたくてさ・・・怖くてさ。もう、なんて言うか絶対に!いねぇじゃん!
忘れたくてさ・・逃げたくてさ・・・忘れたんだろうな、一瞬。それで玄関入ってさ。
お線香の匂いとさ、電気が点かなくてさ、腹は下してるのに、グーグーへってるしさ・・・(笑)』
『ただいまぁ・・・とか俺言ってんの。 誰かいないか、小声でさ、
あのぉ・・・すみませぇぇぇん・・・ただいまぁぁとかさ(笑)』
もう彼は泣き笑いだ。
 
「だたいまぁ?(笑) 普段も言わないのに?」
その辺りから、完全にボクの言葉は、彼を踏みにじった。
『なんか全っ然説明できない!もっと勉強しとけば良かったぁ・・』
「勉強なんて、いつでもできるよ」
『お前はできるから良いよ・・』
「誰もいないなら、邪魔されなくてさ」
『黙れよ』
「お? 寂しさは叱ってくれる者のなきかな・・・ってか?」
『黙れよ』
「メシは彼女の家で家族ぐるみ。自宅は別にあるなんて、大人でもさ、そこまで贅沢な」
『黙れよ』
本当に怒っている彼は、怖いのでボクは黙った。
 
彼は、煙草の吸い殻の中から長いのを探して、また火を点けた。
あちぃ!とか言って火傷しながらもタバコを吸っている。
泣いているので、変に視線を逸らして外なんか見ようとしている。
このフロアには窓なんかないのだ。
 
極上の笑いは、そういう限界からしか出てこない。
 
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暫くして、もう一人の友人に会った。
泣き笑いしていた彼の話をしたかったのだ。
その友人にもマックで会った。
同じ所で再現して笑いたかったのだ。
ボクの小芝居に満足する友人。
涙を流すほど笑っていた。
そして収まると泣いているのだ。
またか!!
 
『アンタはさ、どんなにきっつくても言葉にできるから良いよな(笑)
あいつから死んだって直に聞いたときは、何も言えなかったよ。
その・・お線香の話さ、アタシも最初に聞いてたんだけどさ。
「判らないけど判る」とかさ、変なことしか言えなかったよ。
「ただいまぁぁ」って言ってさ、あ、そうだった!てところ・・・
アタシ、なんか、こう苦しくて、ほっとしてさ・・・あぁもう!上手く言えないけどさ!
口から血でも噴き出すかと思ったよ・・・涙だったけどさ。
親孝行しなきゃって思ったよ。生きてるうちに、自分がそう思えるうちにさ』
 
ボクは笑いながら聞いた。
「親孝行?ソレ、あいつが聞いたら受けるわ(笑)」
 
『言ったよ。
え?アイツ?笑うわけないでしょ?
俺もまったくおんなじこと思った!って言ってたよ』
 
あの小芝居。
泣きたいのはボクだって同じだった。
 
でも、そこまでの思いが涙に追いつかなかった。
あるいは、涙だけが全てを飛び越えてきた、のか、彼らは。
考えたり、悩んだり、そういう思いを飛び越えていく別の感情。
言葉にした途端、飛び去っていく、あの感じ。
文字にしたら、跡形もなくなる、あの感じ。
泣きながら出る笑い。
笑いから出る怒り。
つまり、ボクには、他人の気持ちなんて何にも判っていないのだ。
 
いつも斜に構えて、感情の直撃に耐える小ずるい生き方。
出さない感情は、出せなくなるどころか、なくなってゆく。
全力で生きることへの幼稚な偏見。
泣くことは子ども、ソコで笑うのが大人。
まっ・・たく・・・違うのだ。
喜怒哀楽はシチュエーションで決まらない。
相手の生の感情に、自分の中のどの感情が共鳴するかだ。 
感情とは、誰かに見せて答えを求めるもんじゃない。
自分がどう感じたか、そこを直視できるか否かだ。
 
それでも今は、昔よりマシにはなった。
笑えないということは、絶望しきってもいないということだ。
 
 
 
※追記
前回記事に、多くのコメントをありがとうございました。
涙が出そうになりました。
いや、涙が出ればいいのにな、と思いました。
皆、本当にあったかいです!