MelancholyDampirの日記

ウツな人の独り言

素敵なヒト

少し前、ボランティアをしていた。
同じような家庭を担当している都合上、連絡がてら、たまに茶話会がある。
茶話会は、サバトの様相があり、ボクは敬遠していた。
50代60代の女性が多く、他人様の家庭を誹謗することが主題になっていた。
そこで「あのヒトは質が悪い」とされている女性がいた。
ボクは天邪鬼なので、そう揶揄されるヒトの方が気になるのだ。

会って話すと、少しも嫌みがない。
自分の話をするし、他人様の悪口は一つも言わない。
好感が持てた。
間も良いし、知的で、話題が広く深い。
何より、笑いを誘う時は、そのヒト自身の失敗談だけなのだ。
なるほどなぁ、と思った。
男女差こそあれ、人間は「自分との比較」の中で優劣を決めたがる。
全てが秀でていても、ひとつぐらいは致命的な欠陥を欲しがる。
自分にとって、全てが手の届かない美点で埋め尽くされていると困るのだ。
美点しか持たない存在は疎ましい。目障りであるし、自分が惨めだ。
どこかで悪い病気でももらわないかしら・・と思うのだ。
芸能人のスキャンダルが、散々な書かれ方をされるのはそういうことだ。

そのヒトは、他のボランティアから乞われて、仕事をしている。
同郷で同年代だから、きっと引き受けてくれるだろう、という了見。
仕事は、貧困とか暴力とか、問題ある家庭の、子息への環境の改善と生活指導(助言)。
女性ボランティアの多くが、自分も不幸な育ちだったから判る・・と言う。
しかし、彼女は違った。
噂によると、いいとこのお嬢様育ちで優秀。
旦那が素敵で医師で、いいとこに住んでいる、らしい。
そんなヒトが質悪いとは、ボクには思えなかったのだ。
「いいとこ」という表現は、満たされている、という意味だろう。
愛情にも物理的にも満たされた人間が、大きく外れることは少ないのだ。
あったとしても、本人の場当たり的な逃避行であり、長続きしない。
生まれ持った性情とは、どこまでもついて回るからだ。

だから、茶話会での彼女の話は面白かった。
仮にAさんとする。
他はBとする。複数いたがBで十分だ。

旦那が帰ってこない家庭で、子供があまり学校に行っていないという話をしていた。

A「私のところも主人があまり帰ってこないから、他人事ではないわ」
B『浮気?』
A「(笑)だったら頑張れ!って思うけど、昨年あたりから宿直が多いの。明けも帰ってこられないし」 P
B『お医者さんって大変よね?』
B『ああいう家庭があるなんて考えもしなかったでしょ?』
A「自分で担当するまでは他人事だったかも知れない」
B『どうしたらいいか、わけわかんなくなるでしょ?』
A「わかんないよ(笑)最初は片付けて、それからご飯作って子供をおなか一杯にしてからお話を聞くの」
 「おなか減ってたらイライラするし反抗的になるからね。デザート出したら嬉しそうだったぁ」
B『甘やかしたらダメよ?ボランティアだから、持ち出しになるよ?付け込まれるよ?』
A「子供には判んないし、お金の話で旦那さんだって帰ってこないんだろうし・・そのうちね・・」
B『食費どころか、生活費自体殆どないから、あそこ、生保だし!』
 『デザートなんかスーパーの値引き品で良いよ』
A「小麦粉と砂糖と、あと何かあれば十分だよ。」
 「栄養士取っといてよかったなぁって(笑)」
B『なんでそんなの持ってんの?』 
A「大昔だけど、主人が医師試験の勉強してるとき、私も横で何かしようって。
 「今なら保健師も受けられるんだけど、もう頭に入らなくて(笑)」 P
B『旦那さん、最初からお医者さんじゃないの?』
A「高校のアルバイトが一緒だっただけ(笑) 医師になるなんて、冗談かと思ってた(笑)」 P
・・・・

その辺でつまらん話に脱線し、サバトでは自慢話が聞こえだした。
ボクはそのヒトの話を聞きたかったので、横にうつって聞いていた。
彼女は、中流に生まれて普通に育っていた。(そもそも北海道には何代も続く名家の発想なんてない)
勉強や交友に行き詰まって、中高生の時分には、それなりの脱線もしていた。
それなりにいじめも受け、精神を害したりもしていた。(当事者はあっちで笑っている一人らしい)
子どもももうすぐ自立するから、趣味のバイクを始めようと思っていたら、ボランティアに誘われたらしい。
今は、さっきの話の家庭に旦那が戻りだし、子供たちも良い感じなんだと言う。

A「みんなからは、亭主なんか金だけ入れて帰ってこない方が良い、子供も早く自立して欲しいって
 聞くけどね・・。なんでそんなに文句ばかりなのか判らない・・。」
 「私は、主人が、もっと規則的に早く帰れて元気に笑っている方が良い。自分の心配をもっとして欲しい。」
 「子供もずっ~と居てくれてもいい。お家賃だけもらおうかな(笑)」
 

心からほっこりとした。
このヒトは、自然体なんだ。
周りと比べないんだ。
自分の基準を持っているんだ。
自分に自信があるんだ。
だから、優しいんだ。

ちなみに文中のP(ポイント)で、周りのサバトの空気が澱んだ。
彼女たちの顔に「カチ~ン、こいつ生意気!」と書いてあった。
なぜなのか、素敵なヒトには判らなかっただろう。
判らなくて良い。